コーヒー・ブレイクダウン

第5話 ホタルのばか

私は大阪生まれの大阪育ち。都会ッ子である。初めてホタルを見たのは、高校1年生のとき。クラブの合宿で琵琶湖の北にある余呉湖のほとりに泊まった。合宿恒例の「怪談&肝だめし」の夜。先輩の怪談は真に迫っており、泣き出す女生徒も多数いた。

その後肝だめしである。くじ引きで男女ペアとなり、森の中の一本道をひたすら歩いていく。最初のうちはお化けに扮した先輩が時々出てきたが、やがて出なくなった。道は真っ暗で自分の手のひらも見えない。もしかして、道を間違えたのではないか?このまま山奥に迷い込んで、朝まで出られないのでは??と思うと恐かった。

その時、道端に沢山ホタルが飛んでいた。


私の家の近くに市営の公園があって、そこには川が流れている。もっとも人工の川である。市は、その川をホタルの名所にしようと、昭和58年から毎年ホタルの放流をしている。毎年やっているところを見ると、どうやら繁殖は成功していないようだ。これではホタルの保護どころか虐殺ではないかという気もしないでもない。

今年のホタルの放流は6月中旬の3日間行われた。夕方になると露店まで出て、大変な賑わいである。大勢の人が詰め掛けた。

近所なので、ビールをかっくらったあと、家族で出かけた。夜の8時頃である。色とりどりの髪をした中高生のヤンキーがたむろしている。ホタルより派手である。祭りではないが、彼らにとっては祭り気分なんだろう。

人込みを掻き分け、川にかかっている橋の中央に陣取った。暗いなか、沢山のホタルが飛んでいる。うん、なかなかきれいだ。真っ暗闇の中では、ホタルの光はよく見える。

しかし、どこにも馬鹿な奴が大勢いて、あちこちで懐中電灯で辺りを照らす奴等がいる。真っ暗闇でこそホタルはよく見えるが、少しでも電気の光があると見えなくなってしまう。(昔のえらい人がホタルの光や窓の雪明かりで勉強したというのは本当だろうか。)

そういう、人の楽しみを妨害する奴等は許せん。酔っ払って多少気が大きくなっていたこともあり、少し大き目の声で、

「懐中電灯なんてつけるなよ!アホが!!」

とつぶやいてしまった。
私の背後で、

「これ、オジサンが怒ってるからやめなさい」

との声がしたので振り返ると、5才ぐらいの女の子が懐中電灯を持っている。てっきりヤンキーどもがやってるのかと思ったら、子供もやっていたのである。

子供には悪いことをした。子供と分かってたら、もう少し穏やかな口調で文句を言ったのに。しかし、「オジサンが怒っているから」と叱る親が最近多い。なぜ「人の迷惑だから」と叱ることができないのか。「怒られるから止める」のなら「怒られなければ何してもいい」のか?


帰り際、公園内の公民館でホタル関連の展示をやっていた。ホタルの生態が写真や解説で展示してある。大きさ30cmぐらいの巨大ホタルの模型が一杯あって、お尻がピカピカ光っている。息子2号はこれが恐い。

「あび、あび、いやー」

と叫んでいる。ちなみに「あび」とは「えび」のことである。どうも虫というよりエビに見えるらしい。無理やり近づけると、「ふー、ふー」と模型に息を吹きかけている。逃げていくと思っているのである。その姿に笑い転げて、ようやく怒りも収まってきた。


いつの日にか、日本のありきたりの河原で、ありきたりにホタルが見られる日が来ることを願って止まない一日であった。

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